【若い世代に伝えたい本】塾長読書記録③
【本のバトンリレー 3日目】
「雪の花」 吉村昭
地味な装丁でいかにも固そうですが、読みやすい本です。中学生はまず手に取らなそうな本ですが、歴史小説好きなら読めます。高校生なら将来を考える際に読むと刺激になるでしょう。若い頃に出会った一冊が、その後の原点・回帰点となることも少なくありません。
天然痘の撲滅に生涯をかけ、福井県に種痘の苗を持ち込み、全国に広げたパイオニア 町医・笠原良策の執念を、実にリアルに精緻に綴った歴史小説。
天然痘の存在やそれに関わった人たちの苦悩や努力を後世に伝える貴重な本。一気に読みたくなるほど面白い。
医師志望者に限らず、何かを志す若者を熱くかきたてるであろう小説だった。私までかきたてられてしまった。(単純だからすぐ感動する)
福井が「死の町」と化していくのを尻目に手をこまねくどころか、全く動こうとしない藩の役人たち。そして藩医たち。怠慢と嫉妬。それらは次第に悪意へと変わり、良策の種痘の仕事をことごとく潰していく。
情報が得にくかったその時代の町民は憐れではあるが、町全体で良策に石を投げつけ罵倒するのはいただけない。昔はよく見られた光景かもしれない。
情報が少ないというのは恐ろしいことである。さらに学問を知らない町民には、客観的にものごとを判断するということなど毛頭たりとも思い浮かばないのか、というやりきれなさがよぎる。だからやはり学問は必要だ。
優れた歴史小説を読んだ若者が、志を高みに引き上げるのもよし、また学問の必要性を感じるのもよし。
何はともあれ、人を熱く動かすものは、感動である。そんな感動を与えてくれる良質な文学作品が、端に追いやられていく今日。厚みのない薄っぺらな人間を増やすのではないだろうか。
何を聞いても無感動、無関心。そんな若者が令和時代に溢れないでほしい。たしかに生徒さんたち個々人としては、温和で優しく素直で元気ないい子ばかりだ。
あえて足りないのは、情熱と自分を社会で役立てたいと思う使命感のような気がするのだが、こういうのを「昭和」と笑われるのだろうか。
「先生はみんなより一番若い自信があるね」というと、みんな悪気なく、くすくす笑ってくれる。
死んだ目の先生じゃ誰もついてきてくれないからね。「みんなちゃんとついてこい」というつもりでやっている。そしていつか私なんか軽々と超えて行ってほしい。
おしまい。(o^^o)